お婆さんは時々昔を懐かしみおツルさんの話をしてくれるのだが、これまで初めて聞く話をしてくれたので紹介する。
十数年前、お婆さん夫婦が川の側に引っ越して来た時、川に白鳥の夫婦とツルが一緒にいるのを見て餌をやり始めたのがおツルさんとの付き合いの始まりと聞いていたが、やがて白鳥夫婦が卵を産んだ。その頃、白鳥夫婦は河口の松林の中に巣を作り、そこでかわるがわるに卵を温めていたそうだ。
お婆さん夫婦が見に行くと(かなり歩く)、なんとおツルさんはまるで抱卵する白鳥を守るかのように側に立っていたそうだ。白鳥夫婦はかわるがわる抱卵するが、おツルさんはずっと立ち続けていたそうだ。やがて、二羽のひなが誕生すると、四羽の白鳥一家が間に二羽のひなをはさんで土手を歩く姿が見られるようになったのだが、何とその一家に付き添うようにおツルさんも一緒に歩いてそうだ。
「それは可愛い光景だった」とお婆さんは懐かしそうに目を細めた。
それはそうだろう。想像してみるといい。四羽の白鳥一家とツルのお散歩。もしそのとき、SNSやYouTubeがあったらどれだけ話題になったことだろう。多分、写真があるはずだから、いつか見せてもらいたいものだと思っている。
その後、成長した二羽の子供は旅立ったが、白鳥夫婦は居残り、同じく居残っていたおツルさんと仲良く暮らしていたそうだ。その頃、川は浅くおツルさんも岸辺の浅い所には入れたので、三羽は川の中にいた。今は河川改修で水深が深くなったのでおツルさんが川の中にいるのを見たのは一回だけである。
繁茂した藻を刈り取る船が出ると、三羽はその船の後を追って何やらついばんでいたらしい。
だが幸せは長くは続かなかった。
白鳥の一羽がどうも元気がないなと思っていたら、翌朝、死んでいたそうだ。オスかメスか分からないがお婆さんは今生き残っているのがオスだと思っている。知り合いがメスの死んでいる場所まで案内してくれたので行ってみると、おツルさんと生き残った一羽が近づこうとするカラスを追い払っていたそうだ。知り合いが市役所に連絡して白鳥の死骸を引き取ってもらったそうだ。
それが正確には何年前の事かお婆さんが言わなかったので分からないが、想像するに十年前ぐらいの事ではないかと思っている。その後、生き残った白鳥も姿を消してしまい、おツルさんは一羽だけになってしまった。お婆さんの御主人も十年前ぐらいに亡くなったと聞いているので、その辺りから一人になったお婆さんと一羽になったおツルさんの付き合いが深まったのであろう。

朝のおツルさん。私がやった餌をついばんでいるところ。餌が欲しくて鳴く声はかすかに私の家まで聞こえて来る。お婆さんは耳が遠くなって対岸で鳴く声が聞こえず、目も悪くなりぼんやりとしか見えないと言っていた。

おツルさんに歴史あり。近くでじっとその顔を見つめていると、「お前は何を思っているんだろうね」と問いかけている私である。
今朝はまだ小雨だったので餌をやることが出来たが、午後からはかなりの雨になる。雨合羽を着て犬の散歩に出たがおツルさんには会えず。明日の朝は会えるだろうか。
このところ夏よりも暑い残暑に音を上げていた者にとっては恵みの雨。本当に心底生き返ったような気がした。今夜はエアコンなしで眠れる。明日から秋になってくれるといいのだが。そう言えばおツルさん、昨日の朝はすごい食欲だった。お婆さんは秋になると食欲がでると言っていた。










