6月4日、グループホーム入所の日が来た。それまでの数日というもの、母は食事の時以外はベッドにもぐりこんで一日中寝ている。時折り鼻をぐずらせる音がするたびに儂も気が滅入る。へたに説得しようとすると「死んだ方がましだ」と泣く。それでも連れて行かなければならないので、「家から車で5分」を強調。「日曜日ごとに家に戻る」「月に一回は美容院へ連れて行く」「お盆には手伝いに戻ってもらう」「盆団子はお母ちゃんしか出来ない」「お盆の飾りつけも儂には出来ん」「妹たちが来れるようになったら外泊だって出来る」「同じ入所者でも遠い人は江の川の向こう邑南町の山奥から来ている人もいるんだよ」「用があれば俺は5分で行ける。そんな人はお母ちゃんだけだよ」必死に宥めご機嫌を取り、何とか車に乗せる。しかし、刑場に引かれる罪人のような風情にどうなるんだろうと先を思いやられる。
到着したら、ちょうどみんなで笹巻を作っているところ。この季節、出雲では熊笹を取って来て笹巻を作る。
「曽田さんも作りませんか」と誘われたら、母は素直に仲間に加わる。思いがけない成り行きを見守る。我が親は多分に迎合的なところがあり、誘われたら断れないのだ。スタッフもうまく機嫌を取ってくれたので儂は胸を撫で下ろす。
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笹巻を作っている間に帰る。翌日は朝から皆と一緒に散歩をしたと連絡を受け大いに胸を撫で下ろす。それでも心配だし、約束でもあるから日曜日の6月7日に外出。迎えに行く。
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部屋はタンスとベッドが備え付けで後は儂が家から色々運び込んだ。本人、嬉しそうに儂を迎える。
「あら、帰るの」
どうやら母はショートステイでお泊りに来たと思い込んでいるようで、儂が迎えに来たと思ったらしい。車の中で昼飯を食ったら戻るのだと説明すると不機嫌になる。
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昼飯まで寝ていても仕方ないし、機嫌を直してもらわないといけないので、乾かしておいたニンニクの皮を剥いて貰う。一番外の土がついている薄い皮だけを剥がすとつるつるの白いニンニクになる。任せておいてコンビニへ行って戻ると、何と母はニンニクの小さな房をバラバラにして、その皮を「なかかなか剥けない」と、言いながら一生懸命に剥いている。どうして途中から方針転換が起きるのか理解が行かない。
母が剥いたニンニク片はその夜ホイル焼きにして食う。美味かったが食い過ぎて腹を壊す。
昼は冷麺を作る。実はこの一週間で三回目。母は麺がしこしこしていて、こんなに美味しい麺を食べるのは初めてと喜んで食べる。同じものを出しても初めてと喜んでくれるので作る方は楽だが、心は痛む。
帰りに母はお菓子を一杯持って行く。「あそこでは何も出ないから」と、言う。おやつの出ない施設があるはずがないのに。好きなだけ持たせる。かくして第一回目の外出はどうにかこうにか終了。
翌8日の朝。7時前に携帯で起こされる。発信者は施設。ドキッとする何か事故でもあったのかと。
声の主は母。施設の携帯を借りたのである。
「あんた、いつ帰るの?」「はあ?」「東京へ行ってるんじゃないの」
儂が上京しているから、ショートステイで預けられていると思い込んでいるのだ。また一から説明するも理解も納得も出来ていないと思う。これから毎週日曜日には戻って来るがこういうことの繰り返しだろう。スタッフには朝7時前の電話だけは勘弁してほしいと頼んでおかないと。心臓に悪い。妻のいる特養も同じ。電話があると本当に心臓が止まるほどドキッとするのだから。