老健は入所者の看取りまでする。私の妻もここが終の棲家になる。そう思うとあの殺風景な部屋を、少しでも自宅の部屋らしくしてやりたくなった。ああもしよう、こうもしようと、昨日は思いめぐらしていた。
だが、今日、病院で車椅子のお爺さんを押してトイレに入るお婆さんを目撃、その瞬間、この老夫婦はまだどこの施設にも入所していないのだと察した。
私は妻が入所できた幸運を喜んでいいのか自問した。
あのお爺さんは要介護3だろうか?それとも2か?
老健は要介護3以上しか入れない。要介護1とか2の人は、グループホームのような施設が受け入れる。その老健も、要介護5や4から優先的に受け入れる。となると、素人考えでも、要介護3の人こそ、なかなか順番が回ってこないのだろうなと想像がつく。昨日の相談員の話では、要介護3でも全く身寄りのない人は優先する。そういう救いはあるらしい。
何が言いたいかと言うと、介護度の数字だけでは判断できない、介護の実態、言い換えれば切実さがあるのではないかと言うことだ。
単純に要介護5と3を比べれば、それは5が大変に決まっている。しかし、介護する側の事情を考えてみよう。
私が要介護5の妻を介護するのと、あのお婆さんが要介護3(あるいは2)のお爺さんを介護するのと、どちらが辛いか。私はお婆さんの方だと思う。あの年齢では生きるだけで辛いはずだ。その上、介護まで。他にも施設に入りたくても入れない事情もあるだろう。それを言い出したら切りがない。では、見て見ぬふりをするのか。それは一番いけないことだ。では、どうするか?
実は最近になって、夢みたいなことを考えた。
笑われるかもしれないが、聞いて欲しい。
国民総介護法案を作るのだ。健康な日本国民は全員何年間か介護職の手伝いをすることを義務化してしまうのだ。初めは皆、嫌がるだろう。汚い、辛いと。だが、私は人を信じている。一度でもいいから、困っている人たちのお手伝いをしてごらんと。
いい気分になるし、何よりも優しくなれる。自分が変わり、新しい自分を発見できるはずだ。
日本人の心が改造され、日本がとてもいい国になるような気がするのだが……。