
第三章 あらすじ
御屋形様の息子京極材宗が京極高清に殺された。
材宗と高清は北近江の覇権を賭けて戦っていたのだが、和睦したにもかかわらず高清に騙し討ちされたのである。我が子を殺され、北近江を失い、御屋形様は失意のどん底に沈む。京極家の行方に暗雲が垂れ込めた。材宗夫人の御寮人も吉童子丸も屋敷の奥に閉じこもってしまった。京極家の将来に見切りをつけて奉公人たちも逃げ出す。
辰敬は出雲に帰されることを恐れたが辰敬の処遇は一向に決まらず不安な日々を過ごす。
屋敷を抜け出しいちの家に行くがそこでも出雲に帰ることが話題になる。京極家についても暗い話ばかりになり辰敬は重い足取りで引き返す。と、いちが追って来て辰敬が出雲に戻る時は連れて行ってくれと言う。辰敬はどきっとするがいちは冗談だと笑う。だが本当は誰かに救いを求めざる得ないほどに貧乏公家の苦しい生活に疲れ果てていたのだ。いちは自分にも恋文を届ける者がいるのだと辰敬を動揺させるが、若い二人は自分たちの運命をどうすることもできなかった。
そこへ戦帰りの石動丸たちが現れる。負け戦の石動丸たちは野獣だった。二人に襲い掛かるといちはたちまち乱暴されそうになる。間一髪救ってくれたのは桜井多聞であった。辰敬は京極家の一番大切な時にいちと会っていたことをこっぴどく叱られる。何のために上洛したのか。こんな時こそ御奉公するのが御屋形様への恩返しではないかと。
辰敬は自ら志願して吉童子丸のお守に復帰するが、心を病んだ吉童子丸は辰敬に心を開くことはなかった。
突如、都を震撼させる大事件が勃発する。幕府の最高権力者、管領細川政元が暗殺された。
たちまち三人の養子の跡目争いが始まる。さらにそこへ細川政元によって追放され、諸国を放浪していた元将軍足利義尹が西国の太守大内義興の支援を受け、大内の大船団を率いて上洛して来る。都は世に永正の錯乱と呼ばれる大混乱を来し、現将軍は近江に逃亡。管領争いも細川高国が勝利し、足利義尹が将軍に復帰した。足利義尹、細川高国、大内義隆の天下となったのである。
この未曽有の大混乱の中でいちは父の借金のかたに土倉の主に嫁ぐ。父よりも年上の強欲な金貸しであった。突然の別れに辰敬も錯乱した。そこへ追い打ちをかけるように御屋形様の出雲下向が決まった。吉童子丸と御寮人を伴い都落ちしてしまったのである。辰敬は一緒に戻ることを許されなかった。やっと心が通うようになった吉童子丸とも別れなければならなくなった。
その年の秋、遠い出雲から御屋形様が吉童子丸に守護職を譲ったと言う報せが届く。御屋形様は死期を悟られたのだと桜井多聞は言った。その言葉通り秋の終わりに御屋形様はひとり寂しく悲運の人生を閉じた。
14歳の辰敬は初恋の娘を失い、人生を変えてくれた最大の恩人を失った。
【ドイツAmazonから謎の入金】
何百円単位の妙な入金があり何だろうと思っていた。どうもよくよく考えてみたら一番最初に発売した「白石の本」がドイツで一冊売れたらしいことがわかる。と言うかそれ以外の理由は考えられない。ドイツにいる日本人が購入してくれたのだなあと電子書籍の世界の広さに驚かされるとともに、電子書籍と言う新しい出版形式の末端にちょこっとだけ関与したことがこの齢の人間にしてみたらなんとなく嬉しい。